市來健吾著『厳密な計算 ふたつの球のなめらかなダンス』

「厳密な計算」とは何でしょう?
コンピュータで計算する時、その計算は厳密ですか?
厳密な計算をしようと思ったらどうしたらいいでしょうか?
これらの問いに GNU Multiple Precision Arithmetic Library (GMP) を使って答えます。

本書『厳密な計算 ふたつの球のなめらかなダンス』は、 やさしく言うと「ふたつの球のなめらかなダンス」という問題を「厳密に計算」する方法を、 難しくいうと2つの球形粒子の粘性極限での流体力学的相互作用を定義する スカラー関数の係数を厳密に計算する方法を解説しています。 本文の中では、物理の論文 Jeffrey-Onishi (1984) に注目し、 その骨子を、一般読者(とはいえ、技術書を愛読する人)に、 つまり高校数学くらいの知識で理解できるように解説を試みています。

本書は、当初、普通のコンピュータのプログラムでは計算できない任意精度演算を使った 「厳密な計算」の具体例を広く知ってもらうこと、 その過程で、ぼくがこれまで行ってきた研究の一端を紹介できたらいいな、 と思っていました。

その方向で書いているうちに、国内ではあまり関心の高くない Stokes flow という 流体力学の一領域について、もっと推していきたいという気持ちが盛り上がってきました。

そうやって書いているうちに、最終的には、ぼくのこれまでの研究人生について 振り返らざるを得なくなり、結果として「人間味」が感じられる物理学者の研究の解説が、 結局ここで頑張って書きたかったものだったのかな、と思い至りました。

本書は教科書でも専門書でもない、一冊の技術同人誌ですが、 これがきっかけで学問の世界に興味を持ったり、 世界に羽ばたいていく若者がいれば(無責任な大人ですが)嬉しい限りです。

目次:

  • まえがき
  • 第1章 はじめに
  • 第I部 おはなし編
    • 第2章 計算するということ
      • 2.1 数式処理システム
      • 2.2 【コラム】数学は魔法
      • 2.3 浮動小数点
      • 2.4 有理数
      • 2.5 まとめ
    • 第3章 物理と数学と流体力学
      • 3.1 物理学のなかの流体力学
      • 3.2 【コラム】流体力学という言葉
      • 3.3 流体力学と粒子の運動
  • 第II部 理論編
    • 第4章 流体力学
      • 4.1 ある日の本棚
      • 4.2 流体力学の教科書
      • 4.3 【コラム】自主ゼミの実験
      • 4.4 Navier-Stokes方程式とStokes近似
      • 4.5 Stokesflow
      • 4.6 Lambの一般解
    • 第5章 2つの球の厳密解
      • 5.1 Jeffrey-Onishiの復習
      • 5.2 【コラム】ぼくの流体力学人脈
      • 5.3 論文arXiv:1302.0461について
      • 5.4 【コラム】科学論文の査読システム
  • 第III部 計算編
    • 第6章 GMP - GNU Multiple Precision Arithmetic Library
      • 6.1 RYUONtwobodyプロジェクト
      • 6.2 ビルド
      • 6.3 ヘルプ
      • 6.4 ヘッダー
      • 6.5 resistance 関数 XA()
      • 6.6 漸化式ルーチン X p()
    • 第7章 流体力学的相互作用の厳密解
      • 7.1 結果
      • 7.2 【コラム】対数表
  • 付録 A 係数表
  • あとがき

初出イベント: 技術書典10

ページ数(本文): 122

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